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金井勝

そして、<PASSING THROUGH>だ。朔美の数ある映像のなかで、これがぼくの心を最もひきつける作品となった。

何処にでもある木製のベンチをコアセルベートとし、ヘッケルの進化の系統樹よろしく、ものすごいスピードで進化するそれはベンチ達の壮大なドラマ。一枚のモノクロネガと一枚のカラーネガから、恰もカンブリア紀を過ぎた植物や動物の系譜のように、枝葉が枝葉を生み、進化、増殖する。

木版のベンチが生まれる。シルクとなったベンチ、銅板画のベンチ、醤油、炙り出し、コショーを使ったゼロックスのベンチ、刺繍のベンチがある。
遂には餅にまでベンチが増殖するのだから朔美の稚気ぶりにも愕然とさせられてしまう。

『日本の個人映画作家3』 映像文化罪保護委員会 1976年