Loading

かわなかのぶひろ

彼の映画やビデオ作品も、ふだん人が気が付かないような視点から、対象を捉えたものばかりである。そこには、おどろおどろしいイメージや、
劇的なシチュエーションはまったくない。
こねくり上げ、つくりたくったイメージを、見る人に押し付けて、したり顔をするたぐいの感覚とは異質のイメージなのだ。

 それは、山にかかる霧であったり(KIRI)、テーブルの上におかれたー個のリンゴであったり(TIME)、壁に映った日だまりであったり、何のへんてつのない庭のありさまであったり(ストーン)、窓から眺めた日常の光景であったり(メモリー・シリーズ)どこにでもある、

誰でも撮れる対象なのだが、ひとたび彼の手にかかると、がぜん新鮮な光につつまれる。むろんこういった対象は、撮る人によってかなり衒った作品になりがちであるが、彼はべつだん衒っているわけではない。人間を発見するように、彼はこれらの対象を発見し、驚いているのである。
そんな彼の新鮮な感動が、作品を見ているとピンと伝わるので、とてもすがすがしい気分になる。

『日本の個人映画作家3』 映像文化罪保護委員会 1976年