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五木寛之

萩原朔美さんのエッセイを読んで、とても驚かされた。子供のみずみずしい感性と、老人の醒めた聡明さを見事にかねそなえた文章だからである。

若い萩原さんが、こんな眼を獲得した秘密は何だろう。精神のリラックスした自由さが、読んでいるうちに自然に伝わってきて、これは大変な文明批評だと思った。

すでにこの世から失われてしまった大事なものを、こっそり見せてもらったような気がする。

『赤い自転車』帯 青娥書房 1972年