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草笛光子

最近、といっても、もう一昨年のことになりますが、思いがけない出会いがありました。
 分筆家で演出家、多摩美術大学の教授でもある萩原朔美さんとお話しをして、萩原さんが私について文章をかいてくださる雑誌の企画でのことでした。
 まったくの初対面で、その日、2、3時間、舞台や映画のことについて会話をしただけなのですが、後日、萩原さんの文章を読んで、ハッとさせられました。
 3ページにわたる、私についての文章はこんなふうに結ばれていました。

「それにしても、草笛さんは若い。実年齢と心身とが乖離している。芝居に取り組む姿勢が若さを保つ要因なのか。それとも生来の品性が加齢を押し戻しているのだろうか。
 実は原因は明瞭だ。草笛さんは今日まで歳を取ってきたのではない。若さを重ねてきたのである。当然なのだ。若さを重ねることが、女優という生き方なのである。舞台人の宿命である。」

 私のことを褒めてくださったのが嬉しいというだけではなかったのです。
「若さを重ねることが、女優の生き方なのである」という初めて目にした新鮮な表現に、ドキッとしてゾクッとしました。

 萩原朔美さんは詩人の萩原朔太郎のお孫さんで、作家の萩原葉子さんの息子さん。それこそ、生来の詩人なのでしょう。日本語の力が違います。
「若さを重ねることが、女優の生き方なのである。 舞台人の宿命である」という言葉はくっきりと私の胸の中に刻まれ、”これからの私”をしゃんと支えてくれるものになりました。

 演出家の目でとらえ、詩人の言葉で表すと、草笛光子はこういう女優なのか、と自分のことながら、面白い発見でもありました。
 そのうち、もっと長いものを萩原さんに書いてもらえないものか、機会を探っているところです。

『いつも私で生きていく』 KKベストセラーズ 2012年4月