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谷川俊太郎

朔美さんて人は、目にはっきり見えている物をわざわざ消そうとするのね、それも全て抹消してしまうんじゃなくて、うすく消すんだ。

手でさわれるって思ってた物が、いつの間にかさわれなくなってたりして、びっくりする、つまり遠さを創る人なんだな、時間的にも空間的にも。
その遠さはとてもアンチームな、近い遠さなんだけど、越えられない。

チェシャイア猫を連想するな、猫が消えてメディアが残ったりするんだよ、朔美さんの場合には。と言うのはちょっと言いすぎかな。
単色の虹ってのはどうかしら、<虹の彼方>なんかじゃなくて、虹そのものなんだけど、七色じゃないのね、色があってもモノクロなのさ、何故か。

それでやっぱり虹は虹なんだ、つまり近ずいても近ずいても、さわれない。そういう物ばかりこの人は創ろうとしている。

『PASSING THROUGH』 パンフレット 1976年4月